今日の映画、第2回目の今回は1953年に初上映された小津安二郎監督の名作「東京物語」です。この映画を初めて観たのは私がまだ建築学科の学生のときに教授から「家を設計する中でそこに住まう人が置かれた状況を考察してみると良い」という理由でおすすめされたのがきっかけでした。70年前の映画ですが、現代の日本の家族関係の距離感や絶妙な悲しさ、また人の優しさをうまく表現した名作です。
あらすじ
尾道に暮らす周吉(笠智衆)と妻のとみ(東山千栄子)は、小学校教師をしている次女の京子(香川京子)に留守を頼み、東京に出かけます。
ふたりは下町で小さな医院を開業している長男の幸一(山村聡)の家に泊めてもらうが、東京見物に出ようとしたところで急患が入り、結局でかけることができなくなってしまいます。
その後、下町で美容院を営む志げ(杉村春子)の家に尋ねるものの、志げも夫(中村伸郎)も忙しく、両親はどこにも出かけられぬまま、自宅の2階にただ住まわせているだけで構ってあげられません。見かねた志げは、戦死した次男の妻の紀子(原節子)に両親の面倒を見てくれるよう頼みます。紀子はわざわざ仕事を休んでふたりを東京の観光名所に連れて行き、夜は彼女の小さなアパートで精一杯のもてなしをしました。
翌日、皆に見送られて帰路の列車に乗ったふたりでしたが、とみが体調を崩し、大阪で途中下車して三男の敬三(大坂志郎)の家に泊めてもらいます。回復したとみと周吉は、子供たちが優しくなかったことを嘆きながらも、自分たちの人生はいいものだったと語りあいました。
ふたりが尾道に帰ってまもなく、母が危篤だという電報が届き、三人の子供たちと紀子は尾道にかけつけるが、とみは意識を回復しないまま亡くなってしまします。
紀子が東京に帰る日、周吉は紀子の優しさに感謝を表し、早く再婚して幸せになってくれと伝えて、妻の形見の時計を渡し。紀子は声をあげて泣きます。
翌朝、がらんとした部屋で一人、周吉は静かな尾道の海を眺めるのでした。
このストーリーから感じるで忘れがちな「なにか(人情)」
都会の家族。毎日仕事が忙しく常に追われる生活。疲れても休むこともなかなか出来ない。
そこに両親とはいえ、急な来客。妻側であろうが夫側であろうが、お互いに気を遣うことが増えることに、厄介に思う人が多いのはないでしょうか。
映画に登場する紀子のように、亡き夫の妻の両親が東京に出てくると行って、親切に都内を案内し、自宅に泊めて差し上げ、少なからずのお小遣いまで渡してしまう優しさや心の余裕、今の時代にそんなことが出来る人はどのくらいいるでしょうか。
都会で長く忙しく働いていると忘れがちな「なにか」を思い出すことが出来る映画です。